2011年8月28日 20:00
トラッカーのための「道草」知っと講座
謹んで「ヘクソカズラ」にお詫び申し上げます

先日「へクソカズラ」に会いに行ってきた。もっと早く会いたかった。会って全人類を代表してお詫びしたかった......。
へクソカズラ......、ご推察の通り漢字で「屁糞カズラ」と書く。葉や茎を揉むと悪臭がするからこの名前がついたというが、いくら何でもこのネーミングはヒドいでしょ、愛情もなければユーモアのひとかけらもない、まさに相手の尊厳を傷つける、逆にいえば人間の「おごり」「たかぶり」を感じさせる命名ではないか。「ヘクソカズラ」はそのネーミングに異議を申し立てることも出来ず、一生「屁糞」という屈辱的な名前を甘んじて受けなければならないのだ。私は「ヘクソカズラ」に心から詫びた。

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「ヘクソカズラ」は、アカネ科のツル性の多年草で、日本をはじめ東アジアでごくごく普通に見られる雑草である。ちょうど今、花が盛りである。道路の側帯や中央分離帯の植え込みやフェンスなどに、長いハート状の葉で、花弁が白色、中心部が紅紫色の小さい花をたくさんつけたツル性の植物が巻きついていたら、それが「ヘクソカズラ」である。「屁糞」のレッテルを貼られてしまったために、かなりいじけてヒネこびているが、どうかトラッカーの皆さんも、「ヘクソカズラ」の不遇に思い至って、そっと愛情をかけてやって欲しい。
「ヘクソカズラ」は、直径1センチにも満たない小さな花だが、なかなか可憐で、夏服の花柄のモチーフにしてもいいくらいだ。ただし......
「わあ、可愛いワンピ! ねえ、このお花、何ていうの?」
「ヘクソカズラ!」
......雰囲気は一変し、その場が一瞬で凍りつくことであろう。

地方名もビドいのが並んでいる。クソタレバナ、ヘクソ、ヘクサカズラ、ウマクワズ......。こういったネーミングに対して、「あまりにもかわいそう!」ということだろうか、「ヘクソカズラ」には、実は「ヤイトバナ(灸花)」「サオトメバナ(早乙女花)」という別名もある。
「ヤイトバナ」の名前の由来は、花の紅紫色がヤイト(お灸)をすえた跡に似ている、あるいは花を逆さまにして「お灸ごっこ」に用いたから、などの説がある。また、「サオトメバナ」は花を早乙女のかんざしに見立てたものだという。「ヤイトバナもサオトメバナも、どっちもいいじゃん! そっちを使ってやろうよ!」と思うのだが、「悪貨は良貨を駆逐する」ということだろうか、一度聞いたら絶対忘れない「ヘクソカズラ」の悪名インパクトはあまりにも強烈で、悲しいことに未だ「ヘクソカズラ」は、圧倒的に「ヘクソカズラ」のままなのである。

実は、さらにとんでもないことが分かった。この命名は万葉時代にさかのぼり、万葉集では「クソカズラ」として歌が詠まれているのだ。つまり「糞カズラ」! どうやら、その「クソカズラ」に後年「ヘ」が冠されて、今日の「ヘクソカズラ」に至ったらしい。何と!「ヘクソカズラ」は由緒正しい命名だったのである。雅な万葉人がこの芳しい命名のルーツであれば、脈々とそのネーミングが受け継がれたのも納得である。
しかし、「クソカズラ」か「ヘクソカズラ」かと問われれば、あまりにも直截的な「クソカズラ」より「ヘクソカズラ」の方がまだいいかも知れない。「屁」をもって「糞」を制するような、「屁」で「糞」を中和するような雅やかな趣も感じられるではないか。「ヘクソカズラ」は、千数百年の時の流れの中で、ソフィスティケートされたネーミングだったのだ! この真実の圧倒的な重み! 「ヘクソカズラ」はゆめゆめ「汚名返上」など、してはならない。 (キャップ)

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